地場産業伝統工芸×クラフト


これからの、 ものづくり。

 
暮らしへ寄り添う和紙を提案する「大直」の一瀬美教さん、320余年に亘り硯づくりを営む雨宮家13代目の雨宮弥太郎さん。
お二人にこれからのものづくりについて聞いてみました。
 
 

― 硯作りを営む雨宮さんと、地場産業でもある和紙の「大直」の仕事をそれぞれ教えていただけますか?

雨宮

私が硯作りをする雨端硯本舗は320年余り続いており、私で13代目になります。これまでいかに伝統を次の世代へ繋いでいくかを考えてきました。硯も規格製品を多量に流通させるかつての産業スタイルを維持することが難しくなってきています。今は製品に対して、いかに付加価値を付けて発信していくかに比重を置いて、これまでの硯作りのスタイルをどうやって変えていくか、課題として持ち続けています。

― ものづくりこそ時代の変化への適応が求められますね。

一瀬

私どもの大直で言えば、戦後の主流商品は障子紙と書道用紙でした。ですが住環境の変化があり、障子紙以外の製品もなければ産地としても面白くないなと思い、和紙製品の「めでたや」という部門を立ち上げました。それが今から25年前のことです。「めでたや」は日常を楽しめる和紙製品を作ることがコンセプトで、祭事や行事を祝うための、暮らしを彩る和紙製品を作っています。

雨宮

和紙の用途に多様性を持たせたのですね。硯はそうした製品という意味で見れば今の時代に身近な実用品でなくなってきているという面があります。そのため、硯が現代の生活の中にどんな形で生かされるのか、硯で何が発信できるのかを、これまでに培われてきた伝統の美意識を私の感性に照らし合わせて考えているところです。

― 製品作りというよりは、作家性のあるものづくりを主体にされているのですか?

雨宮

そうですね。私は硯を「自分の心と向き合うための“精神の器”」だと考えています。ただ墨を磨るだけでなく墨を磨るうちに心を鎮め宇宙のリズムと呼応した自分の心と向き合うための道具。現代人の心にとって大切なものなのだという新たな意味付けを行い、広めていくことを重視したいのです。私自身、大学で彫刻を学び現代美術に夢中になっていた時期もありますが、今は硯という伝統的な枠の中でこそ実現できる自分を越えたより深い表現に可能性を感じています。私にとって硯は現代彫刻でもあるのです。自然と石との対話からその可能性をさらに追求していきたいと思っています。一瀬さんは製品作りにおいて、和紙の魅力を伝えるため新たに取り組まれていることはありますか?

一瀬

和紙の魅力をもっと知ってもらうためには、和紙という素材だけでなく、社外デザイナーの力を借りることも必要不可欠だと思っています。最近ではプロダクトデザイナーの深澤直人氏を迎えて、『SIWA』という和紙製品の部門を立ち上げました。さらに今は国内への訴求だけではなく、海外にも和紙の良さを発信していきたいと思い、イギリスとフィンランドのデザイナーを登用した新しい製品作りを進めています。和紙製品に漆の模様を載せていくという、日本の工芸の技術と海外のセンスを融合させた製品のラインナップです。私どもにとっても、デザイナーにとってもお互いに未知の分野にチャレンジできる良い機会であると思います。

― これからのものづくりの発展性を考えると、地場産業とクラフト作家のコラボレーションの可能性を探ることも重要になってくると思うのですが、考えられていることはありますか?

一瀬

峡南地域ではクラフト作家が多く活動しています。でも作家が個人個人で点在しており、誰がどんなものを作っているのかをきちんと把握できない状況です。作家一人一人の活動がわかり、作家同士やクラフト作品を求める人たちが気軽に交流できる場所が必要だと感じます。

雨宮

交流の場があれば作品と作家への理解も深められそうですね。あとは作り手個人も物の良さを自ら発信する必要があると思います。今はインターネットでの情報発信・販売が普及し、物を実際に見なくても手軽に購入することができますが、ネットの情報だけでは伝わらないものがありますよね。それは物自体の手触りであったり、作り手の思いであったりと、実際に見てみないとわからないことが多いと思いますし、それこそがつくり手が最も大切にしているものだと思います。質にこだわりを持って勝負をしていくなら販売に固執しない方法が必要だと思います。

― 販売以外の方法というと?

雨宮

私自身はまず物を実際に使ってみる。ものづくりの現場に触れてつくり手の思いを知ってみる、といった実体験が重要だと思っています。物だけでなく、物を使う環境も含めて大切な要素だと考えているので。硯ならば、墨を磨ることによって墨と硯の感触や匂い、空間全体を楽しむ。墨を磨るという行為の、自分の心を落ち着け、自分の内面と向き合うという〝ハレの時間〟づくりが大切なんです。硯はそのための場所と空間を作るためのものだということを体験してほしいと思っています。

一瀬

そうした体験をした上で物を見ると、また違った観点で物を見る事ができますよね。あとクラフト作品と産業製品の違いは、既存流通を通さずに販売しているか、さらには熱心なファンの存在だと思います。クラフト作品を求める側は、作品の歴史や人までをも見て、作品を購入します。作家が年に数度お客様を呼び、作品に触れてもらう機会を自ら作っている。作家と買い手、双方の関係性を大切に築いていくクラフト作家の動きを見ていると、地場産業が必要としているのは作り手と買い手の関係性なのではと思い、これから見習うべきポイントだと捉えています。物は単体でなく、産地や歴史、人の思いがあって初めてプラスアルファの価値が出てくると思うので。ファンを増やすという意味でも、実際にこの地域に来てもらい、さらにつくり手と接することもできるクラフトツーリズムを今後企画していければいいですね。

― お二人のものづくりにおいて、峡南地域、富士川流域の環境で影響を受けられていることはありますか?

雨宮

実際に暮らしてみて思うのですが、生活するにはとても良い環境だと思います。一番に自然が溢れている環境が素晴らしいです。木が呼吸していることを実感できるような、自然のエネルギーを体で感じられるところがいいですね。そうした感覚を持てるのがこの土地の魅力です。自分が自然の媒体となって作品が自然に満たされ、それが作品の魅力になっていく。私の作品はこの峡南地域のこの環境からできていると思うんですよ。

一瀬

雨宮さんが仰るような豊かな自然環境も影響が大きいと思います。私にとっては地域との結びつきがあるからこそ、自分も製品作りを続ける事ができているのではと感じています。自分が地域の産業の一員であり、地域の産業の発展を自分も担っているという意識をかなり強く持っています。地場産業を廃れさせてはならないと、新たな側面を加えながら産業として成り立たせていかなければと思いますね。
 

一瀬美教Profile
一瀬美教/㈱大直 代表取締役
昭和49年より市川和紙を販売する和紙メーカー「大直」の代表取締役を務める。メインの障子紙の企画販売に加え、自社で企画開発した和紙製品の製造販売も行っている。


季節の歳時記や伝承の行事を祝うための「めでたや」の和紙小物。和紙を通じて日本の四季を楽しむことができる。


雨宮弥太郎Profile
雨宮弥太郎/硯作家
元禄三年から320年余り、峡南地域で硯を制作し続けている雨端硯本舗の十三代目。大学時代には彫刻を学び、現代の感性に寄り添う硯づくりを目指している。


シンプルなものでも感性が入った現代の硯作りを行う。伝統と現代の感性をあわせ日本の美が表現されている。
 
PAGE TOP